国内プログラム開催報告
沖縄スタディキャンプ2023報告
2023年9月15日(金)~9月18日(月)の3泊4日間の国内の研修プログラムを、約3年半ぶりに対面により実施しました。
この「沖縄スタディキャンプ2023」は、日本国内に住む若者を対象に「平和と環境」に焦点を当てた学習と考察の場を提供することを目的として開催。日本各地から計9名の学生と社会人が参加しました。
ウェスレー財団では以前から、女性を対象に英語で平和について考える研修を行ってきましたが、日本人参加者には英語で複雑な社会課題や平和について学び、議論することが難しいと感じられることがありました。そこで、新型コロナ禍を受けて、研修のアプローチを見直し、初めて男女を対象とし、日本語で参加できる平和を考える研修を開催することにしました。
テーマ:沖縄で平和を考えるー「環境と平和」ー
1日目のプログラム
1日目は13時に那覇空港に各自集合し、バスで糸満市にあるひめゆり平和祈念資料館、平和記念公園、平和の礎などの南部戦跡を訪れ沖縄戦の傷みの歴史を学びました。ガイドには、今回の宿泊先である宜野湾市にあるぎのわんセミナーハウス館長の又吉氏がつとめ、沖縄戦の説明、戦後の基地建設の歴史などについても語られ学びを深める時となりました。その後、宿泊施設でチェックインし、開会礼拝とオリエンテーションと続きました。
開会礼拝では、新約聖書マタイによる福音書5章9節の「平和を実現する人々は、幸いである。その人たちは神の子と呼ばれる。(新共同訳)」をテーマ聖句に代表理事小海が「戦争は一人では起こせない。平和も一人では作れない」というメッセージを語りました。聖書が平和についてどのように考えているのか聞く時を持ちました。
礼拝の後は、短いオリエンテーションを行い、その後、PFAS(有機フッ素化合物)による水の汚染問題に取り組む「宜野湾ちゅら水会」共同代表の町田氏が営む自然派レストランにて沖縄の伝統的かつ健康的な夕食を囲みながら、PFAS汚染の現状とそれに伴う様々な国内外での活動について話を聞く機会を持ちました。PFAS汚染は沖縄県内だけの問題ではないことを知る機会となりました。セミナーハウスは普天間基地がある宜野湾市に位置しています。レストランからの帰り道は、普天間基地の近くを車で通りながら、宿泊先のセミナーハウスに戻り、セミナーハウスで1日目の学びを振返るときと、祈りの時をもちました。
2日目のプログラムー大浦湾での海洋体験-
2日目は、セミナーハウスでの手作りの朝食を頂いたあと、朝8時頃バスで出発しました。平和ガイドである宇根氏が一日同行してくださり、車内では沖縄戦後から米軍基地建設に至るまでの歴史や、現在も広がる米軍基地の現状とそれに伴う様々な課題を詳細に語っていただきながら、最初の目的地である、名護市東海岸にある「じゅごんの里」に向かいました。
「じゅごんの里」は大浦湾の素晴らしい海を守ることで、地域の未来を開いてけるという考えのもと、基地に頼らず自立的なものでありたいと2000年に立ち上げられました。「じゅごんの里」では、代表の東恩納氏に瀬嵩の浜でカヤックの乗り方を丁寧に教えていただきながら、実際にカヤックに乗る体験をしました。
カヤックに乗りながら、感動的な美しさと透明度の高い海を堪能しながらも、現在建設中の辺野古基地、監視船、山の上にあるキャンプシュワブ(米軍基地)を遠目に見るという対照的な状況を実感しました。
カヤック体験後は大浦湾の漁港からグラスボートに乗り、大浦湾の海底に育つ何百年~何千年と生きているサンゴ礁の数々を見ました。グラスボートの船長の方からサンゴ礁の種類や海の生き物、また辺野古基地建設に伴う地域の現状を伺いました。
美しいサンゴ礁の間には数えきれないほどの、色彩豊かな魚たちが優雅に泳いでいました。自然に育ったサンゴ礁は何百年、長いものだと3000年もの間生きていると説明を受け、自然の奇跡に感動する一方、目線を上げると、監視船や基地建設に関わる大型船が見えていました。
その後、近くの食堂で沖縄そばを頂く間に、東恩納氏から大浦湾で最近もジュゴンが来た形跡が発見されたことや、国際的な保護区にする希少性のある場所であるが、その側で基地建設が進められている現状を伺いました。
2日目のプログラムーPFAS汚染講演会
その後、町の8割が嘉手納基地となっている嘉手納町の中央公民館に向かうため1時間半ほどバスに乗り、「PFAS汚染アメリカ最新レポートー米国「命ぬ水」上映で広がる共感、PFAS問題の今ー」という講演会に出席しました。この講演会では、ドキュメンタリー映像「命ぬ水~映し出された沖縄の50年」を米国5都市で上映した反響と、PFASの最新情報、特に米政府によるPFAS規制や対応等の報告を聞きました。参加者には、事前にドキュメンタリー映像を視聴する課題が与えられ、それをもとに講演会に参加しました。
初日に、PFAS問題に取り組む「宜野湾ちゅら水会」の方々からも話を伺っていたことに加え、PFAS汚染の現状や米国環境保護局での取扱いや規制など最新情報を聞き、PFAS汚染に関する客観的な視点を学ぶ機会となりました。講演会場には多くの人々が出席し、椅子が足りなくなるほどの盛況ぶりでした。特に年齢層の高い人々がPFAS汚染に対して高い関心を持っていることがわかりました。
2日目のプログラムー沖縄市ヒストリート、エイサー会館
その後、次の予定も考慮しながら、質疑応答のセクションで講演会を失礼し、沖縄市戦後文化資料展示館ヒストリートに向かいました。
巨大な嘉手納基地と接する沖縄市は、戦後沖縄の縮図と形容されています。沖縄市戦後文化資料展示館ヒストリートは、戦後史に焦点をあて、当時の写真やモノ(実物や再現されたサインなど)の資料を展示しています。資料館のスタッフからの詳細な説明を受け、1972年に沖縄が日本に返還されるまでの出来事について理解を深める機会となりました。毒ガス漏れ事故、毒ガス移送、コザ暴動、戦後の米国内におけるアフリカ系アメリカ人への人種差別による分離が、基地の街にも影響していたことなど、これまで知らなかった多くの歴史や、人々の生活、様子を学ぶ時となりました。
その後、徒歩でコザミュージックタウン内にあるエイサー会館を訪れ、沖縄の伝統芸能であるエイサーの歴史や各地域ごとのエイサーについて学ぶ時を短く持ちました。参加者の中には、エイサーに欠かせない太鼓を持って、体験型の展示で熱心にエイサーの踊りを学ぶ者もいました。
エイサー会館を後にし、同じく沖縄市内にある、1954年米軍占領下にできたショッピングセンタープラザハウスで自由に夕食の時を楽しみました。沖縄ならではのファーストフード店や、タコス店などで夕食を楽しむ中で、参加者同士親睦を深めました。夕食の後、バスでセミナーハウスに戻り、この長い一日で学んだことや感じたことを共有するリフレクションの時間を持ちました。リフレクションの後は、参加者の一人が主導した夜の祈りの時間を持ち、2日目を終えてそれぞれの部屋に帰りました。
3日目のプログラム
3日目は、全員で日本基督教団首里教会の主日礼拝に出席しました。首里教会は100年以上の歴史を持つ教会で、又吉氏がその歴史について説明してくれました。礼拝では、うちなーぐち(沖縄の言葉)による主の祈りを体験する機会もありました。戦後、焼け跡に残った奇跡の十字架と共に記念写真を撮り、教会近くのカレー屋で教会員の3名の方と共に昼食の交わりの時を持ちました。
その後、セミナーハウスに戻り、普天間バプテスト教会の神谷武弘牧師から、教会付属の保育園で起きた米軍機からの落下物による影響と子どもたちの状況、保護者や園の取組みについて話を聞きました。未来ある子どもたち、住民の安心安全が守られていない現実を直視する時となりました。普天間基地の前でゴスペルを歌う活動をされている神谷先生と共に、最後は「平和の歌-ヌチドゥチカラ」を皆で賛美しました。
その後、西原キラキラビーチに移動しビーチでの自由時間をそれぞれ楽しんだ後、地元で人気のあるステーキハウスで最後の夕食の時を囲みました。夕食後は、レストラン近くのショッピングセンターで買い物を楽しみ、セミナーハウスに戻りました。セミナーハウスでは最後のリフレクションの時を持ち、3日間の学びを4枚の用紙に短く記載しき共有し合いました。
リフレクションでは、
「想像を超える恐怖」
「間違っていることを間違っていると気づくためには?」
「自分の無知と無関心に気づく」
「自分だけでなく未来への責任」
などの言葉が出され、それぞれが率直に自分の思いや感じたことを語り合いました。
リフレクションの後、閉会礼拝の時を持ち、代表理事小海によって、エフェソの信徒への手紙2章14節~17節の聖書の箇所からメッセージが語られました。どのように私たちが平和を担うものとなれるのか、最後に聖書の言葉を聞き、ともに聖フランシスコの「平和の祈り」を祈り、平和のために祈り、3日間の研修を終えました。
沖縄スタディキャンプ2023を終えて
この研修プログラム開催の為に、ぎのわんセミナーハウスをはじめ多くの皆様にご協力をいただいたことを改めて感謝申しあげます。
短い日程の中、少々忙しい詰め込んだ研修プログラムとなりましたが、平和と環境について学びと体験を通じ、参加者の多くは、様々な視座を与えられている様子でした。沖縄には社会課題に取り組むキリスト者が多くおり、ウェスレー財団では今後も社会課題と平和を考える研修を通じて、次世代を担う若者たちが変えられ、より良い社会を作り出す担い手となるために取り組んでまいります。
参加者の感想(一部抜粋)
人の命を軽んじて、大量に人を殺害し、領土や利益を得ても、そこに人がいなければ、人の信頼や共存がなければ、国は崩壊するだけだ。私たちには「コミュニケーション」が必要なのだ。会話することだけがコミュニケーションではない。知ろうとすること、歩み寄ること、興味をもつことそれもコミュニケーションだ。そういった歩み寄り、関心のコミュニケーションをとることが、今回の沖縄スタディキャンプ2023でできたことだと思う。(大学生2年生女性)
今回の経験を自分の中にしまいこむのではなく、周りの人に伝えていきたいと思います。沖縄の問題が沖縄だけの問題でなく、私たちの生き方の問題であると気付いたからこそ、自分の振る舞いに反映させ、発信していきたいと思います。—(省略)発信しようとして課題だと感じたのは、自分の言葉で話すには勉強し続けなければいけないということと、相手に伝わる伝え方を模索し続けなければならないということです。–(省略)たとえ同世代であっても経験も価値観も異なる人たちにどう伝えていくか、模索し続けなければならないと考えます。様々な要素が絡み合う複雑な問題だからこそ、伝え方によって誤解を招いてしまったり、敬遠されてしまうことは極力避けたいと思います。なるべく多くの人が考える機会を作るために、伝え方を模索し、また今は100%は伝わらなくても発信し続けることで種をまき続けていきたいと考えます。今回のキャンプに参加し学びを与えられたことを単に思い出として消化するのではなく平和を作り出す人になるための一歩としていきたいと思います。(社会人女性)