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瀬戸内スタディキャンプ2025スタッフ報告


瀬戸内スタディキャンプ2025「アートを通した多様な表現方法から社会、世界を知り考える」

研修日程:2025年10月9日~12日
場所:香川県、高松市、女木島、豊島、大島
参加人数:5名

2025年10月9日~12日の4日間、香川県高松市と瀬戸内海に広がる島々で開催されている「瀬戸内国際芸術祭」を訪れ、多様な表現方法から社会、世界を知り考える「瀬戸内スタディキャンプ2025」を実施しました。参加者は大学生と社会人の5名でした。
今回のスタディキャンプは、財団が瀬戸内国際芸術祭実行委員会および国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所の協働による写真展に助成を行ったことをきっかけに企画されたものです。アート作品を通して、難民、環境、ハンセン病、人権、地域コミュニティについて学ぶことを目的としました。

 

瀬戸内国際芸術祭とは

瀬戸内国際芸術祭は3年に一度開催される国際的な芸術祭です。今年度、ウェスレー財団は瀬戸内国際芸術祭と国連難民高等弁務官事務所が協働して実施した写真展に一部助成協力をしました。詳細はコチラ

瀬戸内国際芸術祭は、瀬戸内海に点在する12の島々と高松港・宇野港を舞台に3年に一度開催される国際的な現代アートの祭典です。2010年の初開催以来、国内外から約100万人が訪れる大規模な芸術祭で、春・夏・秋の3シーズンに分かれた約100日間、アートと島の豊かな自然・文化を体験することができます。

弊財団が助成した写真展「SONGS—ものが語る難民の声」(写真家・ホンマタカシ氏)は、高松港に設置された特設ギャラリーで展示され、難民一人ひとりが大切にしてきた「モノ」を通してその背景にある物語を伝える作品となっています。スタディキャンプでは最終日に鑑賞の時間を設けました。

高松港に設置されたトレーラー前で

1日目:女木島

初日は女木島へ向かいました。眩しいほどの陽光の中、船での移動そのものが非日常の始まりでした。海風を受けながら到着した女木島では、廃校を活用した展示や国内外アーティストによる多彩な作品に触れました。
カラフルな展示や体験型の作品など、現代アートならではの表現を楽しみながら、芸術祭の雰囲気を体感しました。

2日目:豊島

2日目は豊島(てしま)を訪れました。緑豊かな田園、美しい海、澄んだ空が広がるまさに「豊かな島」。しかしこの島はかつて産業廃棄物の不法投棄に苦しんだ歴史を持っています。

黄金色の棚田と青空、海のコントラストは圧巻で、その美しさからは過去の環境被害を想像することが難しいほどでした。

豊島美術館では、水滴の響きと静寂の中で、自分自身と向き合うような特別な時間を過ごしました。
昼食は「島キッチン」のお弁当で、島の食の豊かさも体感。午後は家浦港周辺の海をモチーフとした作品や個性豊かな展示を巡りました。

3日目:大島

3日目は、本キャンプの中核となる大島を訪問しました。大島にはハンセン病療養所である青松園があり、島全体が療養所として長く隔離政策の対象となってきた歴史を持っています。1996年に「らい予防法」が廃止されるまで約90年間、入所者の方々は島を自由に出ることができず、多くの方が家に戻ることを断念せざるを得ませんでした。世界的には隔離の必要がないことが判明して以降も政策が継続されていた事実は、深い問題を投げかけています。

 

青松園をより深く理解するため、特別講師として歌手でありクリスチャンの沢知恵さんをお迎えしました。沢さんは幼い頃から青松園と関わり、園歌の研究や入所者の方々との交流を続けてこらています。この日は私たちのために島内を案内してくださり、長年の交流の中で出会った方々の歩みを丁寧に語ってくださいました。

現在は人の気配が少なくなった青松園で、かつて生活していた方々、そして今も暮らしている方々の人生を、沢さんは「入所者」という括りではなく、一人ひとりの“個”として語ってくださいました。その語りを通して、青松園で暮らす方々が、それぞれ異なる考え方や価値観を持ちながらも、共に暮らすほか選択肢のない環境の中で、互いを尊重し、ときにぶつかり合いながらも関係を築いてこられた方々の姿には、深い力強さを感じました。

島内を巡る中で、沢さんは詩人・塔和子さんの詩を朗読してくださいました。言葉の重みと背景にある経験を感じ取りながら、静かに耳を傾けました。昼食後には、沢さんが親しく交流する方との歌の練習の様子を見学し、島で続く日常の一端に触れることができました。

その後、芸術祭の作品を鑑賞しました。展示の中には、かつて園内での結婚は認められながらも子どもを持つことが許されなかったこと、仮名で生活せざるを得なかったこと、亡くなった後の扱いに至るまで制限が続いたことなど、長年の人権侵害の歴史を示す内容もありました。こうした事実を学び、今後どのように語り継ぐべきかを考える時間となりました。
夕方、大島を離れ高松港へ戻る道中、参加者はそれぞれに得た学びを静かに振り返っていました。

4日目:高松港

最終日は日本基督教団屋島教会の礼拝に出席しました。礼拝では、前日に大島で歌った賛美歌「ここは神の御国なれど」が偶然歌われ、思いが重なるひとときとなりました。
午後は、高松港でホンマタカシ氏の写真展を鑑賞しました。難民としてひとくくりに語られがちな人々の「個人の物語」に光を当てる作品で、改めて“名前を持った一人ひとり”の存在を考える機会となりました。

4日間で、異なる島々とアート作品に触れながら、参加者は日常から離れ、社会課題、人権、歴史、地域の未来について多くの気づきを得ました。
ウェスレー財団は、今後も多様な学びの機会を通して社会課題を見つめ、若い世代が世界をより深く知るための研修を実施してまいります。

参加者の声

社会人として常に「強さ」を求められ、走り続けて半年が経った頃、自分を一度慌ただしい日常から切り離してアートと対峙する中で自分を見つめ直す機会が与えられました。東京に帰ってからも自分と向き合い続けた結果、見えてきたのは自分のどうしようもない「弱さ」でした。このプログラムに参加した私が次にするべきこと、それは他者の、そして自分の「弱さ」にももっと触れることだと思っています。他者との関わりの中で見えてくるその人の「弱さ」を受け止めると同時に、自分自身の小ささ、弱さも差し出す。弱さで苦しんでいる友人に「大丈夫だよ、私も弱いから、一緒に生きよう」と伝えていきたいです。 (社会人)

 

特に印象に残ったのは、大島青松園社会交流会館で紹介されていた、入所者が生きるうえで支えとなった6つのキーワード -「入る・集まる・祈る・働く・熱中する・眠る」-です。これらは単なる生活の動作ではなく、人が人として生きるために欠かせない営みであり、「豊かさ」へとつながるヒントなのではないかと感じました。家と職場を往復し、休みの日はなんとなくスマホを眺めて過ごす、そんな現代の生活の中では、「豊かさ」は得られないのかもしれない。そう気づかされるきっかけとなりました。ただ、そのような「豊かさ」を感じさせる一方で、そこに至るまでには深い痛みを伴う過去があったことを、決して忘れてはいけません。「悲しいことがあったけれど、今は豊かだからよかったね」といった単純なまとめではなく、同じ過ちを繰り返さないために何ができるのかを考えることが大切だと感じました。その意味でも、本などで学ぶことに加え、実際に現地を訪れ、自分の目で見て、耳で聞き、肌で感じ、あらゆる角度から考えるための情報を集める必要性を、大島で実感しました。 (社会人)

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